脚本書き方04 脚本の柱と回想とフラッシュバックの書き方

脚本の柱は撮影するための場所の指定です。初めに ○ と書きます。撮影台本になった時にシーンナンバーを書くためのものです。

朝、夕方、夜の場合は撮影時間が限られているため(朝)(夕方)(夜)と指定します。昼の場合は(昼)と書かずに省略します。柱が前の柱と同じ場所の場合は同と書きます。書かないと柱以外を読むまで同じ場所か違う場所か分かりづらいからです。同じ場所がある場合はあるだけ同と書きます。
○学校・屋上(夜)
○同・1組教室・中(夜)
○同・2組教室・中(夜)
○同・同・前(夜)
○同・1組教室・前(夜)

翌日になり日付が変わった場合は(日替わり)と書きます。室内の場合は朝になったと分かりづらいので、一度、風景を入れた方が分かりやすいです。建物なら外観、街並みなら全景とかを指定します。
○友田家・多夏子の部屋(夜)
多夏子「寝ないで頑張ろう」

○同・外観(朝)(日替わり)

○同・多夏子の部屋(朝)
   多夏子はぐっすり眠っている。
月刊ドラマでは ○ の後に全角空白1文字がありますが、読みやすくするために追加されたもので、実際の脚本を読むと空白がないことが多いです。

時間が経過した場合は「×××(バツバツバツ)」を使います。バツバツバツの正式名称は分かりません。月刊ドラマではト書きの字下げが2文字なので×と×の間を空白5文字に変更されることが多いですが、実際の脚本はト書きの字下げは3文字が多いので、×と×の間は空白4文字の方が見た目がいいと思います。
  ト書きの字下げ2文字。ト書きの字下げ。
   ×     ×     ×
  空白5文字。空白5文字。空白5文字。
   ト書きの字下げ3文字。ト書きの字下。
    ×    ×    ×
   空白4文字。空白4文字。空白4文字。

「×××(バツバツバツ)」は時間経過以外にもいろいろな使い方があるので、時間経過の「×××(バツバツバツ)」の場合は、ト書きに「時間経過。」と書いた方が親切です。
○スーパー(夜)
   婦人服売り場。
   セール中の張り紙。
   多夏子、ゆりか、吉岡さんがパジャマを試着して一人ずつポーズをとる。
   グラビアポーズをしたり、ふざけている。

○同(夜)(時間経過)
   多夏子が二つのパジャマを見比べて悩んでいる。
○スーパー(夜)
   婦人服売り場。
   セール中の張り紙。
   多夏子、ゆりか、吉岡さんがパジャマを試着して一人ずつポーズをとる。
   グラビアポーズをしたり、ふざけている。
    ×    ×    ×
   時間経過。
   多夏子が二つのパジャマを見比べて悩んでいる。
同じ意味ですが、場所が同じなので、時間経過の「×××(バツバツバツ)」の方が分かりやすいです。撮影場所が同じで続けて撮影できるので、わざわざ柱にして別のシーンにする必要はないです。時間経過して昼から夜になったとかなら、撮影時間が違うので柱の方が分かりやすいです。

1時間後とかは柱で書いても分かりづらいので、時間経過の前と後で時計を見せたり、食べ終わった皿があったり、登場人物が疲れていたりした方が分かりやすいです。一番簡単なのは、「1時間後」と画面に表示する方法です。ト書きで、テロップ「1時間後」、字幕「1時間後」、『1時間後』と書きます。

○同(夜)・1時間後
   『1時間後』
   多夏子が二つのパジャマを見比べて悩んでいる。
    ×    ×    ×
   時間経過。
   『1時間後』
   多夏子が二つのパジャマを見比べて悩んでいる。

「×××(バツバツバツ)」を使うものにはフラッシュバックもあります。過去のシーンが一瞬映る感じです。フラッシュバックや回想と書きます。
○学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」

○(回想)スーパー
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。

○(回想戻り)学校・屋上(朝)
多夏子「何とかしなきゃ」
○学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」
    ×    ×    ×
   回想。
   スーパー。
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。
    ×    ×    ×
多夏子「何とかしなきゃ」
同じ意味ですが、柱は撮影するための場所の指定なので、一度使ったシーンをもう一度使うならフラッシュバックの「×××(バツバツバツ)」、新たに撮影する必要があれば柱にする人が多いです。新たに撮影する必要があっても短いシーンなら、流れを止めないためにフラッシュバックの「×××(バツバツバツ)」で書く人が多いです。

刑事ドラマで刑事が何かのきっかけで手掛かりを思い出す回想はフラッシュバックの「×××(バツバツバツ)」、犯人が告白する事件の真相の回想は柱がよく使われます。

フラッシュバックは説明にも使われます。伏線が回収されたときは説明するよりも、フラッシュバックの「×××(バツバツバツ)」で伏線のシーンの回想を見せた方が分かりやすいです。柱の ○ にシーンナンバーを書いている場合は、どのシーンナンバーの回想か書くと、分かりやすくて親切です。

フラッシュバックの「×××(バツバツバツ)」の回想が長い場合は次のページになったりして、フラッシュバックの終わりの「×××(バツバツバツ)」が分かりづらいので、ト書きで「回想終わり」「回想ここまで」などと書いた方が親切です。
○学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」
    ×    ×    ×
   回想。
   スーパー。
多夏子「大丈夫? ここで死んで化けて出るとかやめてよ」
ゆりか「パジャマ買えなくても店員さんを恨んだらあかんで」
店員「分かりましたよ。ちょっとだけ安くしますから」
ゆりか「よっしゃー」
多夏子「修学旅行の夜が楽しみや。みんなで一緒に着よう」
吉岡さん「うん」
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。
   回想終わり。
    ×    ×    ×
多夏子「何とかしなきゃ」

別の場所で起こっていることや現実に起こってない場合は回想のフラッシュバックではなく、フラッシュになります。フラッシュやインサートやイメージや妄想と書きます。
○学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」

○(ゆりかのイメージ)スーパー
   パジャマを持って笑顔で踊っている吉岡さん。

○学校・屋上(朝)
多夏子「何とかしなきゃ」
○学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」
    ×    ×    ×
   ゆりかのイメージ。
   スーパー。
   パジャマを持って笑顔で踊っている吉岡さん。
    ×    ×    ×
多夏子「何とかしなきゃ」
同じ意味ですが、フラッシュは新たに撮影する必要があるため柱にする人が多いです。新たに撮影する必要があっても短いシーンなら、流れを止めないためにフラッシュの「×××(バツバツバツ)」で書く人が多いです。

短い違うシーンが連続する場合(次々と映像が変わるなど)は、ト書きで「ダイジェスト映像。」と書いた後に、フラッシュの「×××(バツバツバツ)」を連続した方が分かりやすいです。

短い同じシーンが交互に連続する場合(電話の会話など)は、ト書きで「以下、カットバック。」と書いた後に、柱やフラッシュの「×××(バツバツバツ)」を省略して、セリフだけ書くことが多いです。
脚本書き方03 脚本のト書きの例と以下カットバックの書き方

フラッシュの中でも映像を見せる場合はインサートやイメージと書かれる場合が多いです。インサートは何かを象徴するような映像を入れるときによく使われます。映像を挿入するだけで撮影する必要がないので、フラッシュの「×××(バツバツバツ)」の方が分かりやすいです。
多夏子「親の転勤で来週には北海道に引っ越すって」
    ×    ×    ×
   インサート。
   ガラスが割れる映像。
    ×    ×    ×
ゆりか「そんなん急すぎるやろ」
多夏子「無茶苦茶だわ」
ゆりか「もう学校来られへんの?」
店員「残念だなあ」
ゆりか「わたしが社長になっていいんなら働いてもいいけどね」
   笑っている三人。
    ×    ×    ×
   インサート。
   今にも雨が降りそうな暗い空の映像。
    ×    ×    ×
   その様子を遠くから金田が見ていた。

「×××(バツバツバツ)」の前と後は同じ場所なので、場所が違う場合は柱で書きます。
○学校・屋上
   放送が流れる。
金田の声「友田多夏子と平安ゆりかの二名はすぐに職員室に来なさい」

○(インサート)雷が落ちる映像。

○学校・職員室
   多夏子とゆりかが金田に頭を下げている。
金田「全額払った人に返しなさい」

回想の柱の書き方のルールははっきり決まっていません。回想と分かればいいです。
○(回想)スーパー
○スーパー(回想)
○回想・スーパー
○スーパー・回想
○回想/スーパー
○(ゆりかの回想)スーパー
○ゆりかの回想・スーパー
○回想・スーパーでパジャマを持って笑顔の吉岡さん
フラッシュバックの「×××(バツバツバツ)」が終わると元の場所に戻りますが、柱の回想の場合は元の場所に戻る必要はありません。元の場所に戻る場合は回想が終わって元の場所に戻ったことを書いた方が親切です。
○(回想戻り)学校・屋上(朝)
○回想戻り・学校・屋上(朝)
○(現在)学校・屋上(朝)
○元の学校・屋上(朝)
プロの脚本を見ても回想の柱の書き方はバラバラです。一つの脚本の中で統一されていればいいです。一話完結の刑事ドラマは複数の脚本家が交代で書くことが多いですが、脚本家によって回想の書き方が違っていたので、現場によって違うというよりは脚本家の好みで使い方が分かれるようです。

オープニングのシーンでおばあちゃんが過去を思い出す場合は、ほとんど回想で、さらに回想の回想まで出てきて分かりづらいです。その場合はオープニングの柱を現代や現在にします。
○学校・屋上
   友田多夏子(88)が泣きながら話す。
多夏子「懐かしいねえ。ここでよく話していたの」

○(回想)学校・屋上(朝)
   『70年前』
   高校生の多夏子(18)と平安ゆりか(17)が話している。
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」

○(回想の回想)スーパー
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。

○(回想の回想戻り)学校・屋上(朝)
多夏子「何とかしなきゃ」
○(現代)学校・屋上
   友田多夏子(88)が泣きながら話す。
多夏子「懐かしいねえ。ここでよく話していたの」

○学校・屋上(朝)
   『70年前』
   高校生の多夏子(18)と平安ゆりか(17)が話している。
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」

○(回想)スーパー
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。

○(回想戻り)学校・屋上(朝)
多夏子「何とかしなきゃ」

オープニングのシーンの数時間前に戻って説明が始まる場合は、オープニングのシーンに戻るので、ト書きで「オープニングシーンに戻る。」と書いてから同じシーンを繰り返すと親切です。オープニングのシーンに戻ったら、柱に現代や現在と書かなくていいです。
○学校・教室(夜)
   吉岡さんが懐中電灯を自分の顔に向けている。
吉岡さん「それでね。その扉を開けようとするとね」
多夏子の心の声「私たちは学校で吉岡さんの怪談話を聞いていた。なぜこうなったかと言うと……」

○(回想)学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」

○(回想の回想)スーパー
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。

○(回想の回想戻り)学校・屋上(朝)
多夏子「何とかしなきゃ」

○(回想戻り)学校・教室(夜)
   オープニングシーンに戻る。
   吉岡さんが懐中電灯を自分の顔に向けている。
吉岡さん「それでね。その扉を開けようとするとね」
○(現在)学校・教室(夜)
   吉岡さんが懐中電灯を自分の顔に向けている。
吉岡さん「それでね。その扉を開けようとするとね」
多夏子の心の声「私たちは学校で吉岡さんの怪談話を聞いていた。なぜこうなったかと言うと……」

○学校・屋上(朝)
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」

○(回想)スーパー
   パジャマを持って笑顔の吉岡さん。

○(回想戻り)学校・屋上(朝)
多夏子「何とかしなきゃ」

○学校・教室(夜)
   オープニングシーンに戻る。
   吉岡さんが懐中電灯を自分の顔に向けている。
吉岡さん「それでね。その扉を開けようとするとね」
オープニングのシーンを繰り返さずに、オープニングのシーンの続きから始める場合は、ト書きで「以下、オープニングシーンの続き。」と書くと、混乱しなくなるので親切です。


柱は撮影するための場所の指定なので、柱だけで撮影場所が分からないといけません。柱だけを見て、同じ撮影場所ばかりの場合は退屈と思われます。私が受賞した脚本を作品化するために修正していたときは、えがわり(画変わり? 絵変わり?)が欲しいと制作側の人に言われ、場所を変更しました。

会社から居酒屋とか、学校からファストフード店とか、暗い場所から明るい場所とか、場所を移動するのはドラマの定番です。場所が違うと登場人物の気持ちも変わります。密室など同じ場所で会話し続ける場合でも、回想やイメージなどで違う場所を途中で見せた方が退屈しません。
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