脚本の直し03 シナリオコンクール応募のテレビドラマ脚本

数年後、原稿用紙10枚を53枚にしてテレビ局のコンクールに応募したものです。結果は一次審査落ち。内容を変えずにそのまま他のテレビ局のコンクールにも出すが、結果は一次審査落ち。

簿記の先生をいかすため主人公を男子高校生から女子商業高校の八百屋の娘に。友達の父親の病気が理由では弱いので、幸薄い転校生が北海道へ引っ越すことに。校長の娘で告げ口する嫌な女生徒を追加。


 あらすじ
 女子商業高校の簿記の先生をしている金田伸司(36)はお金にうるさいので有名。頑張っても頑張らなくても給料は変わらないので授業に熱心ではない。価値のない物に金をかけるのはバカが持論だ。
 八百屋の娘の友田多夏子(17)たちは間近に迫った修学旅行が気になって授業も聞かず話してばかり。
 同じ班の吉岡美冬(17)も修学旅行に行けると喜んでいたが、親の仕事で北海道へ引っ越すことになる。修学旅行には間に合わず一週間以内にいなくなってしまう。
 多夏子は美冬が引っ越す前に京都へ行こうと提案する。京都出身の平安ゆりか(17)と一緒に三人で京都へ行くために禁止されているバイトをしたり奮闘するが、校長の娘の山口麻由香(17)に告げ口されうまくいかない。
 多夏子は金田にお金を借りようとするが、お金より努力とか友情が大事と怒られる。
 職員の研修旅行で先生たちがいなくなる日に学校を京都のように飾りつけをして京都気分を味あわせようと考える。
 学校のいろんなクラブや研究会の助けもあり、夜中の学校に京都を再現する。京都の料理が次々と出てくる。最後に運動場の木に電飾を付けて大文字を再現するが、木が燃えて火事になる。
 多夏子とゆりかは自宅謹慎になる。金田は簿記の貸借対照表を見せる。燃えた木や焦げた校舎の弁償費用がびっしりと書かれ、合計は百万円になっていた。しかし、その横に友情百万円と書かれ、合計金額0円になっていた。
 多夏子は金田にお金を返すために八百屋の手伝いをする。金田は実家の手伝いなんてぬるい仕事は仕事と認めないとバイトを許し、野菜を買って帰る。


登場人物
金田伸司(36)    女子商業高校の簿記の先生
友田多夏子(18)   生徒
平安ゆりか(17)   生徒
吉岡美冬(17)    生徒
山口麻由香(17)   生徒


○友田青果店(夕方)
   小さな八百屋。
   野菜が並んでいる。
   友田勝次(45)が売っている。
友田「今日はキュウリが安いよ」
   金田伸司(36)が歩いて来る。
   高そうなスーツと鞄を持っている。
友田「今日はキュウリが安いよ、いつもの二割引きだよ」
   金田は立ち止まる。
   ポケットから電卓を出して計算する。
金田「昨日は二百十円、今日は百七十円。ということは、二割引ではなく一割九部引きでしょ」
友田「またあんたか」
金田「二割引であれば百六十八円にしないといけない」
友田「そんなのだいたいでいいだろ、誰も気にしてないよ」
金田「あなたがおっしゃってるいつもというのはいったいいつのことなのでしょうか。もしかして二百十二円五十銭の時があったのでしょうか」
友田「無い無いそんな値段。買うの買わないの」
金田「いつもの二割引の百六十八円なら買いましょう」
友田「もう分かったよ。それでいい」
   友田はキュウリを袋に入れて金田に渡す。
   金田は一万円札を出す。
友田「細かいのは無いのかね。たまにはもっと買ったら?」
   金田はお釣りをもらうために手を出している。
友田「そうだ、今日は大根も」
   金田はお釣りをもらうために手を出している。
   友田は嫌そうにお釣りを渡す。
   金田はお釣りを一枚ずつちゃんと確認して財布にしまう。
   ニヤッと笑う金田。
   金田はキュウリの袋を持って歩いていく。
友田「やな客だな。毎日計算ミスを指摘しやがる。一番安いのだけしか買わねえし。嫌がらせか」
多夏子の声「あれ、うちの先生だよ」
   友田多夏子(18)が立っている。
友田「は?」
多夏子「うちの簿記の先生」

○タイトル「簿記の先生がうるさい」

○東品川女子商業高等学校・正門(朝)
   『東品川女子商業高等学校』の表示。

○同・教室(朝)
   金田が簿記の授業をしている。
   黒板に簿記の用語をいろいろ書いている。
   前の方の生徒たち眠たそう。
    ×    ×    ×
   後ろの方の席の多夏子。
   隣の席の平安ゆりか(17)と喋っている。
   ゆりかは京都弁で声が大きい。
   教科書で隠して京都の旅行雑誌を見ている。
ゆりか「なあ、ここどう?」
多夏子「いいねえ」
ゆりか「金閣寺行くやろ」
多夏子「行く行く」
ゆりか「金閣寺行ったら銀閣寺も当然行かなあかんし」
多夏子「行こう」
ゆりか「そこまで行ったらついでに清水寺も行かんとな」
多夏子「さっきから、寺ばっかりなんですけど」
ゆりか「あかん、あかん。清水寺は外されへんわ」
多夏子「そうかな」
ゆりか「清水の舞台知ってるやろ」
多夏子「ああ」
ゆりか「あの舞台で下見てるときに、やめてよ、もう。押さんといてよ。落ちる落ちるとかやりたいやん」
多夏子「何それ、楽しそう」
ゆりか「そやろ、そやろ。京都出身のわたしに任せといたらええねん」
多夏子「自由行動でそんなに回れるかな」
ゆりか「大丈夫、わたし裏道知ってるから任せなさい」
    ×    ×    ×
   金田が黒板に書きながら説明をしている。
金田「この貸借対照表では借方と貸方の合計がですね」
   前の方の生徒たちは何人か寝ている。
   山口麻由香(17)は真面目に授業を聞いてノートをとっている。
    ×    ×    ×
多夏子「ねえねえ、吉岡さん」
   隣の席に吉岡美冬(17)がいる。
   真面目にノートをとっている。
美冬「あっ、わたし?」
多夏子「吉岡さんはどこか行きたいとこないの?」
美冬「えっ」
多夏子「修学旅行」
美冬「ああ」
多夏子「京都京都」
美冬「あの……わたし」
多夏子「えっ、もしかして修学旅行も休んじゃうの?」
美冬「行くよ」
多夏子「良かった。初めてよね、学校の行事に参加するの」
美冬「ごめんなさい。わたしすぐ体調悪くなっちゃうから」
多夏子「大丈夫、大丈夫」
美冬「大文字」
多夏子「大丈夫?」
美冬「あの、行きたいところ。大文字」
ゆりか「大文字か」
多夏子「何、それ?」
ゆりか「山に火つけて、燃やすんや。それが遠くから見たら、漢字の大の文字に見えるやつやん」
多夏子「おお、なんか有名なやつ。それ見に行こう」
ゆりか「ごめん。大文字はお盆の時期しかやってないねん」
多夏子「ええ、そうなの」
美冬「そうなんだ。見たかったなあ」
    ×    ×    ×
金田「借りた分と貸した分は差し引き0にしないといけません」
    ×    ×    ×
   美冬も授業を聞かずに話に夢中になっている。
ゆりか「八ツ橋めっちゃおいしいのに、知らんの?」
美冬「食べたい」
ゆりか「おみやげにいっぱいこうて帰り、ほんまにみんな喜ぶから」
美冬「うん」
多夏子「そうだ、今日さあ。パジャマ買いに行こう」
ゆりか「ええなあ、お揃いのかわいいの買おうや」
多夏子「吉岡さんも」
美冬「いいの?」
多夏子「当たり前でしょ、同じ班なんだから一緒に寝るのよ」
ゆりか「夜は枕投げして、怖い話して寝かさへんからな」
多夏子「やめてよ」
美冬「楽しみ」
ゆりか「もしかして怖い話いっぱい知ってんのちゃうの?」
美冬「うちの親、転勤が多くて引っ越してばっかりだから、全国各地の怖い話はだいたい知ってて」
多夏子「こわっ」
ゆりか「よっしゃ、吉岡さんの怪談ナイト開催決定や」
多夏子「やっぱりうちらの班は最強チームやな」
ゆりか「京都のことなら何でも知ってるわたしがいるからな。ガイド料もらわなあかんわ」
美冬「舞妓さん」
多夏子「ん?」
ゆりか「舞妓さんに会いたいの?」
美冬「うん」
ゆりか「いるいる、いっぱいおるから」
多夏子「そんなに」
ゆりか「一緒に写真も撮ってくれるから、ええ記念になるで」
    ×    ×    ×
金田「修理などを行ったため、これは修繕費になります」
    ×    ×    ×
ゆりか「芸者遊びはこう」
   ゆりかが手を挙げて踊る。
多夏子「凄い、面白い。わたしもやりたい」
   多夏子も一緒になって踊る。
   美冬もちょっとだけ真似してみる。
金田「じゃあ借方が百万円の場合、貸方はいくらになるでしょうか」
   金田が多夏子の方を見る。
   多夏子は手を挙げている。
金田「はい、友田」
多夏子「えっ」
   ゆりかは凄い勢いで京都の旅行雑誌をしまい、顔を伏せる。
   美冬は必死にノートをとる。
   他の生徒たちも慌てて授業を聞く。
   多夏子がゆっくりと立つ。
金田「友田、聞いてなかったのか」
多夏子「すいません」
金田「ちゃんと聞いとかないとダメだぞ。お金の計算間違えると客の信用を失うぞ」
多夏子「はい」
金田「お前んちの八百屋もいっつも計算間違ってるぞ」
   生徒たち笑う。
金田「じゃあ、山口」
   麻由香が立つ。
金田「借方と貸方は同じ金額になります。借方が百万円の場合、貸方はいくらになるでしょうか」
麻由香「百万円です」
金田「はい、正解。借方と貸方は同じ金額になりますね。素晴らしい」
   麻由香は多夏子の方を向いて笑っている。
    ×    ×    ×
多夏子「むかつくわー」
ゆりか「しゃあないやん」
多夏子「またひいきして」
ゆりか「校長の娘やから」
多夏子「先輩に聞いたんだけどさあ、あいつ適当に授業しても真面目に授業しても同じ給料だから適当にやってるんだって」
ゆりか「まあそのおかげで授業中に喋ってても注意されへんし」
多夏子「最近、うちの店にもよく来るんだって」
ゆりか「そうなん」
多夏子「それで客引きのための安い野菜だけ買って帰るんだって」
ゆりか「ひどいなあ」
多夏子「値段に文句言った後に値引きさせて毎回一万円札で払うんだって」
ゆりか「うわー、やりそう」
多夏子「嫌がらせよ。いつか営業妨害で訴えてやる」
ゆりか「いっぱい慰謝料もらおう」
多夏子「けっこう良いスーツ着てるし、金持ちっぽいよね」
ゆりか「前から気になっててんけど、毎月、ちょっとずつ豪華になってへん?」
多夏子「給料日のたびに自分へのご褒美って感じで買ってるのかな」
ゆりか「ここ数か月はあんまり高いもん付けてなかったから、そろそろドーンと高いもん買いそう」
多夏子「まさかお金に細かい簿記の先生がそんなことしないわ」
    ×    ×    ×
   金田は黒板に字を書いている。

○高級時計店・外観(夜)

○高級時計店・中(夜)
   高そうな腕時計が展示されている。
   店員が三つの腕時計を並べて見せている。
   金田は食い入るように見ている。
店員「いかがでしょうか」
   金田は一瞬店員に目線を移すが、すぐに腕時計を見る。
店員「はめてみますか?」
   頷く金田。
   店員は金田の腕に腕時計を付ける。
   金田は腕時計をはめた手をいろんな角度から見ている。
店員「どうですか、はめてみた感じは?」
金田「……」
店員「お似合いですよ」
金田「……」
店員「あのー」
金田「いくら?」
店員「はい、お値段はこちらに」
   店員が指差した先に値段。
   百万円以上する。
店員「いかがでしょうか」
金田「……」
店員「新作ですので、まだ付けてる方も限られますし」
金田「新作か」
店員「はい、発売されたばかりで」
金田「新作ということを考慮すればこの値段は妥当か」
店員「そうなんです。なかなか手に入り辛くなっておりまして」
金田「……」
店員「それに限定品ですので、ナンバリングされてまして、当店では最後の一本なんです」
金田「気に入らなくて売ったとしても、限定品でプレミアがついて、逆に儲かることも考えられる」
店員「そうなんですよ。財産としても価値があります」
金田「じゃあ、これで」
店員「ありがとうございます。お支払はカードですか」
金田「いや、現金で払う」
   金田は一万円札が入った封筒を出す。
店員「はい、ありがとうございます」
   店員は一万円札の枚数を数えている。
金田「カードで支払いを先延ばしにするなんてありえない。分割払いなんてもっと意味が分からない。なんで同じ物をわざわざ高い値段を払って買うのか」
店員「現金を持ち歩くのも物騒ですし、ポイントも付きますから、最近はカードでお支払いをする人が多いですね」
金田「ポイントが付くとか言われても、ポイントに見合った商品なんて交換できたことがない。その分を値引きしてくれた方がいい」
店員「はい、そうですね。おっしゃる通りでございます」
   金田は腕時計をはめて、ニヤニヤしている。
店員「価値を分かる人に買ってもらえて嬉しいです」
金田「価値のない物に金をかけるのはバカですから」

○スーパー(夜)
   婦人服売り場。
   セール中の張り紙。
   多夏子、ゆりか、美冬がパジャマを試着して一人ずつポーズをとる。
   グラビアポーズをしたり、ふざけている。
    ×    ×    ×
   多夏子が二つのパジャマを見比べて悩んでいる。
   ゆりかと美冬は選んだパジャマを持っている。
ゆりか「もう、はよしてよ、ずっと待ってんねんで、なあ」
美冬「うん」
多夏子「欲しいのはこっち。でも、こっちの方が安いしなあ。この値段の差は大きいなあ」
美冬「お金貸そうか」
多夏子「お金を借りてまでは欲しいと思ってないから」
ゆりか「なんなんそれ。分かった、わたしに任せて」
   ゆりかは店員を呼ぶ。
ゆりか「ちょっと店の人」
店員「お呼びでしょうか」
ゆりか「これ、ちょっと安なれへんかな」
店員「こちらはセール中の商品でして」
ゆりか「それは分かってる。三つも買うねんで」
店員「はあ」
ゆりか「気持ちだけ安なれへんかな」
店員「そう言われましても」
   ゆりかは美冬を指差す。
ゆりか「この子なんて病弱やから学校行事にずっと参加できへんかってんで。それがやっと参加できるようになって」
   ゆりかは美冬を肘でつつく。
   美冬は慌てて咳き込む。
多夏子「大丈夫? ここで死んで化けて出るとかやめてよ」
ゆりか「パジャマ買えなくても店員さんを恨んだらあかんで」
店員「分かりましたよ。ちょっとだけ安くしますから」
ゆりか「よっしゃー」
多夏子「修学旅行の夜が楽しみや。みんなで一緒に着よう」
美冬「うん」
   パジャマを持って笑顔の美冬。

○東品川女子商業高等学校・教室(朝)
   金田が簿記の授業をしている。
   腕には高級腕時計。
   黒板に文字を書きながら、ちょこちょこ腕時計を気にしている。
   後ろの方の席にゆりか。
   隣に多夏子。
   多夏子の隣の美冬の席が開いている。

○同・屋上(朝)
   多夏子が携帯電話で電話している。
   隣にゆりかがいる。
多夏子「あ、吉岡さん」
ゆりか「出た?」
多夏子「昨日はごめんね、遅くまでつきあわせちゃって」
ゆりか「風邪ひいたんかいな?」
多夏子「引っ越し?」
ゆりか「何々?」
多夏子「えっ、どういうこと?」
ゆりか「どうしたん?」
多夏子「北海道って」
   多夏子とゆりかが顔を見合わせる。
多夏子「修学旅行は? ……。そう、分かった」
   多夏子は電話を切る。
ゆりか「どういうこと?」
多夏子「親の転勤で来週には北海道に引っ越すって」
ゆりか「そんなん急すぎるやろ」
多夏子「無茶苦茶だわ」
ゆりか「もう学校来られへんの?」
多夏子「たぶん」
ゆりか「引っ越しの準備とかあるもんな」
多夏子「泣いてた」
ゆりか「行きたくないんや」
多夏子「本人が一番悔しいし」
ゆりか「あんなに嬉しそうな顔見たことなかったからなあ」
    ×    ×    ×
   スーパー。
   パジャマを持って笑顔の美冬。
    ×    ×    ×
多夏子「何とかしなきゃ」
ゆりか「どうすんの?」
多夏子「とにかく、一緒に京都に行くって約束したから」
ゆりか「そうやな」
多夏子「引っ越す前に三人だけで京都に行こう」

○同・教室
   多夏子とゆりかがカンパと書かれた箱を持って、教室内を歩いている。
   数人の生徒が小銭を入れていく。
   麻由香は遠くからそれを見ている。

○同・屋上
   多夏子とゆりかはお金を並べている。
多夏子「四千八百三十六円」
ゆりか「一人も京都に行かれへんな」
多夏子「深夜バスなら一人ぐらいわ」
ゆりか「一人で行ってどうすんのよ」
多夏子「全然足りんな」
ゆりか「しゃあないわ、うちの学校バイト禁止やし。集まったほうやで」
多夏子「貯金ないの?」
ゆりか「修学旅行に行くからテンション上がってもうて、めっちゃ買い物してお小遣い無くなってもうたし」
多夏子「どうしたらいいんだろう」
ゆりか「他のクラスにもダメ元で行ってみるか」
多夏子「そうしよっか。やれることやってみよう」
   放送が流れる。
金田の声「友田多夏子と平安ゆりかの二名はすぐに職員室に来なさい」

○同・職員室
   多夏子とゆりかが金田に頭を下げている。
金田「全額払った人に返しなさい」
多夏子「はい、すみませんでした」
ゆりか「ごめんなさい」
金田「旅行に行きたいんなら親にお金を出してもらいなさい」
多夏子「うち八百屋だし、貧乏だからそんなお金無いです」
ゆりか「うちの親は関西人やし、お金にはシビアなんです」
金田「分かった。もう帰りなさい」
多夏子「あの、先生」
金田「ん?」
多夏子「お願いします。吉岡さんと一緒に京都へ行きたいんです」
ゆりか「もう二度と会えないかもしれないんです」
多夏子「これが最後のチャンスなんです」
ゆりか「来週には北海道に行ってしまうんです」
金田「なんだ?」
多夏子「ほんのちょっと京都への旅費を貸していただければ」
ゆりか「たった三人分の旅費だけ貸していただけないでしょうか」
金田「お金を出せって言うのか」
多夏子「先生はとてもお金持ちと聞いております」
金田「誰がそんなことを」
ゆりか「高そうな時計してるもんね」
   金田は慌てて腕時計を隠す。
多夏子「お金は必ず返しますから」
金田「ダメだ。すぐにお金で解決しようとするのは君たちの悪い癖だ」
多夏子「そんなあ」
金田「お金よりも大事なことがある」
多夏子「何ですか、それは」
金田「努力とか友情かな」
多夏子「きれいごとは辞めてください。青春ドラマじゃないんだから。そんなので京都に行けません」
金田「自分の力で稼いだことのない人間は、すぐに誰かに頼ればお金を貸してくれると思っている」
多夏子「わたし実家の手伝いでお金稼いだことあります」
金田「実家の手伝いなんてぬるい仕事は仕事のうちに入らん。自分たちで何とかしなさい」
多夏子「分かりました。もう先生には頼みません」
ゆりか「ケチ」
金田「さっさと帰れ」
   金田は多夏子とゆりかを追い出す。

○同・廊下
   多夏子とゆりかが歩いている。
   麻由香が歩いてくる。
麻由香「お金貯まった?」
多夏子「もしかして」
ゆりか「あんたがちくったんか」
麻由香「残念ね、せいぜいがんばりなさい」
   麻由香が歩いていく。
ゆりか「どうしょっか」
多夏子「自分たちで何とかしなさいって言ってたよね」

○スーパー(夜)
   婦人服売り場。
   セール中の張り紙。
   ワゴンに服が山盛りになっている。
   多夏子とゆりかが店員になっている。
多夏子「安いよ安いよ、今日は特別大謝恩記念セール。二割引き三割引き当たり前の赤字覚悟のセールだよ」
ゆりか「ちょっとそこのお姉さん、そうそこの綺麗なお姉さん」
女の客「わたし?」
   女の客が立ち止まる。
ゆりか「これなんてピッタリと思うけど、服が着られたがってる」
女の客「そうかなあ」
多夏子「わたし服の声を聴ける特殊能力がありまして、えっ、何々、美人に着てもらいたいって」
女の客「それ、いただこうかしら」
    ×    ×    ×
   多夏子とゆりかの周りに行列ができている。
   ワゴンにあった服が凄い勢いで無くなっていく。
    ×    ×    ×
   買い物したお客さんが服をいっぱい持って出て行く。
店員「ありがとうございました」
   ワゴンの商品が無くなっている。
店員「おつかれ」
多夏子「おつかれさまです」
店員「いやー、あの商品売れなくて困ってたんだよ。ありがとう」
ゆりか「うちらの手にかかればこんなもんやから」
店員「はい、バイト代」
   多夏子は渡された封筒の中身を見る。
多夏子「こんなに貰えるの?」
店員「完売ボーナス。ところでさあ社員にならないかな」
ゆりか「いやー、困ります。わたしたち学生ですから」
多夏子「そうそう、京都までの三人分の旅費稼いだら辞めます」
ゆりか「このペースやったら、一週間もあったら貯まるし。夜中の高速バスの貧乏旅行やけど」
店員「もっと稼いで新幹線で高級ホテルに泊まりなよ」
多夏子「どうしても来週までに京都に行かないと行けないんです」
店員「残念だなあ」
ゆりか「わたしが社長になっていいんなら働いてもいいけどね」
   笑っている三人。
   その様子を遠くから金田が見ていた。

○東品川女子商業高等学校・正門(朝)

○同・職員室(朝)
多夏子「何でですか」
金田「バイトは禁止」
ゆりか「お願いします。お金が貯まるまで」
金田「バイトは禁止」
多夏子「あとちょっとだけ待ってもらえませんか」
金田「さっさと帰れ」
   金田は多夏子とゆりかを追い出す。

○同・廊下(朝)
   多夏子とゆりかが歩いている。
ゆりか「どうしよう。もう無理だ。どっか近場で日帰り旅行しようか」
多夏子「京都じゃなきゃダメ。絶対京都に行くの。あんなに京都に行きたがってたじゃない」
   麻由香が歩いてくる。
麻由香「昨日、見ちゃった」
多夏子「ん?」
麻由香「スーパーの店員お似合いだったのに残念ね」
ゆりか「また、あんたがちくったんか」
麻由香「家に帰って、お父さんにその日あったことを喋っただけよ。たまたま父親が校長だっただけなんですけど。ごめんなさいね」
多夏子「吉岡さんと一緒に京都に行くためにお金稼いでたのよ」
麻由香「あら残念ね。あっ、そうだ。いいこと教えてあげよっか」
ゆりか「いらねえ」
麻由香「ねえ聞きたい?」
多夏子「言いたいんだろ」
麻由香「わたしね、明後日、京都に行くの」
多夏子「何ですって」
麻由香「なんか職員の研修旅行とかで、先生みんなで京都に行くんですって。修学旅行の下見とかも兼ねてるみたい。それで家族も連れて行っていいみたいなの。あっ、わたし校長の娘だから、わたしも一緒に行けるんだって」
   多夏子は悔しくて拳を握る。
麻由香「あなたたちも校長の娘だったらよかったのにね」
   麻由香は歩いていく。
   ゆりかは麻由香の後姿に向かって舌を出す。
ゆりか「何て嫌味な奴」
多夏子「ちょっと待って。明後日、学校に先生たちいないんだ」
ゆりか「でも学校休みよ」
多夏子「そう学校に誰もいない」
ゆりか「何? なんか思いついた?」
多夏子「京都に行けないんだったら、学校を京都にしよう」
ゆりか「どうやって」
多夏子「学校を京都のように飾りつけして京都気分を味あわせてあげるのよ」
ゆりか「そんなことできるの?」
多夏子「分からない」
ゆりか「ええっ」
多夏子「でも、やるしかないでしょ」

○同・屋上(朝)
   多夏子が電話している。
   隣にゆりか。
多夏子「そう明後日の夜に学校に来て。絶対だよ。あっ、パジャマも忘れないでね」

○同・廊下(夕方)
   多夏子はいろんな生徒に次々と話しかけている。

○同・用務員室(夕方)
   ゆりかは机を挟んで用務員と喋っている。
   用務員は渋い顔。
   ゆりかは紙袋から菓子折りを出して、用務員に渡す。
   用務員は笑顔。

○同・映画研究会部室(夕方)
   『映画研究会』
   映画研究会部員が映写機の横にいる。
   多夏子は3Dメガネをかけている。
   スクリーンに映像が流れる。
   多夏子は飛び出して見える映像を必死に手で触ろうとしている。

○同・茶道部部室(夕方)
   『茶道部』
   ゆりかは茶道部部員たちとお茶を飲んで休んでいる。

○同・美術部部室(夕方)
   『美術部』
   美術部員たちが何かを描いている。
   美術部員は金閣寺の写真を見ながら模造紙に金閣寺を描いている。
   他の部員は銀閣寺、清水寺など。
   多夏子は後ろからそれを見て頷いている。

○同・演劇部部室(夕方)
   『演劇部』
   ゆりかはカツラを付け、顔を白塗りして着物を着ている。
   舞妓のように踊る。
   笑っている演劇部員たち。

○同・屋上(夜)
多夏子「どうだった?」
ゆりか「成功成功。学校こっそり開けてくれるって」
多夏子「こっちは映写機貸してくれるって。あとお寺の絵も完成したし」
ゆりか「あとは食べ物か」
多夏子「ネットで注文しても間に合うか微妙だしなあ。どこかで京都の物産展とかやってないかな」
ゆりか「東京駅の近くに京都の物いっぱい売ってるとこ知ってるよ」
多夏子「よし、行こう」

○道(夜)
   多夏子とゆりかは大量の食料が入った袋を持って歩いている。
多夏子「こんだけあったら大丈夫か」
ゆりか「バイトで稼いだお金使い切っちゃったね」

○東品川女子商業高等学校・正門(夜)
   『当日』
   美冬がリュックを背負ってゆっくりと歩いてくる。
   物陰に隠れていた多夏子が手招きしている。
   美冬が走ってくる。
多夏子「ごめんね。引っ越しで忙しいのに呼び出して。大丈夫?」
美冬「うん」

○同・下駄箱前(夜)
   ゆっくりとドアを開ける多夏子。
   中を確認して入っていく。

○同・廊下(夜)
   真っ暗。
   懐中電灯をつけて歩いてくる多夏子。
   その後ろを怖そうに歩いている美冬。
美冬「肝試し? なんか怖い」
多夏子「しーっ」
   ゆっくりと歩いていく。

○同・教室(夜)
   ドアを開けて入ってくる多夏子。
   懐中電灯を教室内に向ける。
   白塗りのゆりか。
多夏子「ギヤー」
美冬「びっくりした」
ゆりか「わたしよ、わたし」
   教室の電気がつく。
   カツラを付けた舞妓姿のゆりか。
ゆりか「おいでやす」
ゆりか「ここは京都どすえ」
   机が端に片づけられている。
美冬「うわっ、あれ」
   美冬が指差す。
   壁の模造紙に金閣寺が描いてある。
ゆりか「有名な金閣寺どすえ」
   他にも銀閣寺などお寺がたくさん。
   ベンチがある。
ゆりか「ここで休んでいきよし」
多夏子「座ろう」
美冬「うん」
   美冬は荷物を置く。
   ベンチに座る多夏子と美冬。
ゆりか「八橋、お食べ」
   ゆりかが八橋を持ってくる。
   京都風の伝統的な皿にのっている。
   多夏子と美冬は八橋を食べる。
多夏子「初めて食べた、うまい」
ゆりか「どう、おいしい?」
美冬「うん、とっても」
   ゆりかは舞妓のように踊る。
多夏子「どうかな?」
美冬「嬉しい。ありがとう」
   美冬は泣き出す。
ゆりか「どんどん食べや。お漬物も湯豆腐もお茶漬けも和菓子も何でもあるからね」
   お漬物、湯豆腐、お茶漬け、和菓子。
   次々と京都料理が並べられていく。
   ゆりかがどんどん料理を持ってくる。
美冬「ねえ、一緒に食べよう」
ゆりか「そうやね」
   ゆりかもベンチに座って食べる。
   ほっぺたをつねったりして、ふざけ合う三人。
   一緒に記念写真を撮る。
   嬉しそうな三人。
    ×    ×    ×
   机の上に食べ終わった食料の袋や皿が散乱している。
多夏子「お腹いっぱい」
ゆりか「今日はここで寝るから」
   教室の隅に布団が敷いてある。
多夏子「パジャマ持ってきた?」
美冬「うん」
ゆりか「着替えよっか」
    ×    ×    ×
   三人はパジャマに着替える。
   ゆりかはカツラは外したが、白塗りのままでパジャマ。
多夏子「気持ち悪い」
ゆりか「落とすの面倒だから」
   美冬が布団に寝転ぶ。
多夏子「まだ寝るには早いよ。今日のメインはこれからだ」
   多夏子は3Dメガネを美冬に渡す。

○同・屋上(夜)
   3Dメガネをかけている美冬。
   三人はゆっくり歩いている。
   多夏子が映写機のボタンを押す。
   清水寺の映像が流れる。
美冬「うわっ」
   美冬には3Dに見えている。
   美冬は飛び出して見える映像を必死に手で触ろうとしている。
ゆりか「下見てみ」
美冬「きゃっ、高い」
   多夏子は美冬を押す。
美冬「ダメ落ちる」
   ゆりかも一緒になって美冬を押す。
美冬「落ちる落ちる」
   笑っている三人。
   屋上の手すりの方に歩いていく。
   運動場が明るい。
美冬「何、あれ?」
    ×    ×    ×
   運動場。
   クリスマスツリーのように木に電飾がつるしてあり光っている。
    ×    ×    ×
   美冬は3Dメガネを外す。
   屋上から見ると、『大』の字に光っている。
美冬「きれい」
多夏子「凄いね」
ゆりか「ほんまもんはもっと凄いねんで」
   眺めている三人。
   美冬がくしゃみをする。
多夏子「寒いな。教室戻って寝よっか」
美冬「うん」
多夏子「誰や、先にパジャマになろうなんて言うたのは?」
ゆりか「だって面白いやん」
    ×    ×    ×
   運動場。
   木の電飾がパチパチ音を鳴らしてショートしそう。

○同・教室(夜)
   真っ暗。
   布団で話している三人。
   美冬が懐中電灯を自分の顔に向けている。
美冬「それでね。その扉を開けようとするとね」
   多夏子はブルブル震えている。
   ゆりかは耳を押さえている。
美冬「なんか誰もいないのに。足音が聞こえるの」
多夏子「怖い」
ゆりか「本物や。やばい、マジなやつや」
美冬「ペタッ、ペタッ。その足音がどんどん迫ってきて振り返るとそこには」
   美冬が突然立ち上がる。
多夏子「ギャー」
ゆりか「神様仏様」
   美冬が窓の方へ歩いていく。
   窓の外が明るい。
美冬「見て」
多夏子「何?」
   多夏子とゆりかも窓の方へ歩く。
    ×    ×    ×
   運動場。
   電飾をしてあった木が燃えている。
    ×    ×    ×
ゆりか「やばい、わたし用務員さん呼んでくる」
   ゆりかは教室を出て走っていく。
多夏子「外にホースがあったはず、消しに行こう」
美冬「うん」
   多夏子と美冬も教室を出て走る。

○同・用務員室前(夜)
   ゆりかはドアを激しく叩く。
   用務員が出てくる。
   ゆりかの顔は白塗り。
用務員「で、出たー」
   用務員はドアを閉めてカギをかける。
ゆりか「火事よ、火事。ちょっと開けて」
   ゆりかはドアを激しく叩く。

○同・運動場(夜)
   燃えている木。
   美冬はホースを水道の蛇口に繋ぐ。
   多夏子はホースを持って木の方へ向かう。
   美冬が蛇口をひねる。
   多夏子はホースを木の方へ向けて水をかける。
   水は届かない。
   さらに木が燃えている。
   隣の木にも燃え移る。
   ゆりかが走ってくる。
   消火器を持った用務員が来る。
   用務員は消火器を燃えている木に向かって撒く。
   火の勢いは収まらない。
   消防車の音。

○同・運動場(朝)
   黒く焦げた木。
   校舎の壁も煙で黒くなっている。
   その周りに立ち入り禁止の柵がしてある。

○多夏子の家
   多夏子はテレビを見ている。
   携帯電話が鳴る。
多夏子「もしもし、ゆりか。えっ、もうそんな時間」
   多夏子は時計を見る。
   昼の二時。
多夏子「わたしお昼食べてないや。あーあ、暇過ぎて死にそう。自宅謹慎っていったいいつまでなんだろう。うん、分かった。じゃあね」
   多夏子はテレビを見る。
   テレビの上にはあの日、三人で撮った記念写真がある。
   多夏子は微笑む。
   携帯電話が鳴る。
多夏子「もしもし、ゆりか。あっ、先生」

○東品川女子商業高等学校・職員室(夕方)
多夏子「ごめんなさい」
ゆりか「あの木は働いて弁償しますから」
金田「バイトは禁止と何回言ったら分かるんだ」
   金田が紙を出す。
   貸借対照表と書かれた簿記の紙に細かく金額が書かれている。
金田「あの木はもう植え替えなきゃいけないんだ。植樹代十万円」
多夏子「そんなにするの?」
ゆりか「高い」
金田「壁が黒くなって塗り替えなきゃいけないし、ペンキ代五万円。それから」
    ×    ×    ×
   下を向いて落ち込んでいる多夏子とゆりか。
   紙の内容を読んでいる金田。
    ×    ×    ×
金田「あとは細かい修繕費が三万八千円。合計で百万円」
多夏子「百万円だなんて」
ゆりか「返せないわ、そんな大金」
金田「これが借方。貸方の方は三人の友情百万円」
多夏子「ん?」
ゆりか「今なんて」
金田「授業ちゃんと聞いてたか。借方と貸方は同じ金額になるんだ」
多夏子「どういうことですか」
ゆりか「返さなくていいの?」
   金田は紙を見せる。
   貸借対照表と書かれた簿記の紙の左側に細かく金額が書かれている。
   左側の合計百万円。
   右側に三人の友情百万円。
ゆりか「先生、時計」
   金田の腕に腕時計が無い。
   金田は慌てて腕を隠す。
多夏子「絶対返しますから」
金田「さっさと帰れ」
   金田は多夏子とゆりかを追い出す。

○東品川女子商業高等学校・正門(朝)
   『東品川女子商業高等学校』の表示。

○同・教室(朝)
   金田がかわいい便箋の手紙を読む。
   生徒たちが聞いている。
金田「みなさんにはお世話になりました。特に友田さんと平安さんには大変お世話になりました」
   多夏子とゆりかがいる。
   美冬の席は誰も座っていない。
美冬の声「父の仕事で北海道に行く予定でしたが、急遽場所が変更になりまして、わたしは今、京都にいます」
   顔を見合わせる多夏子とゆりか。
美冬の声「生で見るお寺はみんな凄い迫力です。金閣寺も銀閣寺も。他にも素敵なところがいっぱいあります。早く見に来てほしいです。そして、またみなさんに会いたいです」
   笑っている多夏子とゆりか。
美冬の声「友田さんと平安さんには、わたしの怪談話、途中までしかお話できなかったので、ぜひ続きをお話ししたいです。また京都にもいろんな怪談話がありまして、新しい怪談話も仕入れております。そちらの方もみなさんに披露させていただきたいです」
   首を振っている多夏子とゆりか。
美冬の声「また会える日を楽しみにしています。吉岡美冬。P.S.大文字の映像を見たのですが、ちょっと迫力が足りなかったかな。やっぱり大文字はもっと勢いよく燃えないとね」
   苦笑いする多夏子とゆりか。

○友田青果店(夕方)
   友田と多夏子が店先に立っている。
友田「今日はニンジンが安いよ」
   金田が歩いて来る。
多夏子「今日はニンジンが安いよ、いつもの二割引きだよ」
   金田は立ち止まる。
多夏子「先生」
   ポケットから電卓を出して計算する。
金田「昨日は百八十五円、今日は百四十八円か。二割引き、あってる」
友田「またあんたか」
金田「バイトは禁止」
多夏子「ごめんなさい。バイトは禁止だって分かってるんです。でもどうしても働いてお金を返したくて」
金田「バイトは禁止」
多夏子「ごめんなさい」
友田「なんだよ。実家の手伝いして何が悪いんだ」
金田「バイトは禁止」
   多夏子は店の中に行こうとする。
金田「前にも言ったけど、実家の手伝いなんてぬるい仕事は仕事とは認めん」
友田「何がぬるいだ、この野郎」
多夏子「えっ、じゃあ、いいんですか、やっても」
金田「ニンジンもらおうか」
多夏子「はい」
   多夏子はニンジンを袋に入れて金田に渡す。
   金田は小銭をちょうど出す。
多夏子「はい、ちょうどですね。お買い上げありがとうございました」
友田「なんだ、今日は小銭か。いつも一万円札なのに、生徒には甘いんだな」
金田「計算の弱い人間はお釣りの金額が多くなると、パニックになって間違えて多く貰えるからね」
友田「なんだとこの野郎」
金田「確認しなさい。いつもより売り上げが増えてるはずだ。その子のおかげなんだから、その分多く給料を払うんだね」
   金田はニンジンの袋を持って歩いていく。
友田「むかつく、なんなんだあいつ」
多夏子「うちの簿記の先生。ちょっとうるさいけど」
                 おわり
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